【総務省SCOPEプロジェクト】超低消費電力光ノード実現に向けた超小型高速相変化光スイッチの研究開発

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新規波長帯の探求(Tバンド及びOバンド)

1.研究背景

光通信ネットワークにおいて光伝送トラフィックの急激な増加により、従来光通信に利用されてきたC/L帯の周波数帯域(11.4 THz)だけでは、帯域不足が懸念される。
⇒1µm帯の量子ドットレーザの開発により、帯域幅を79 THzも有する T/O帯の活用が期待される。
•超広帯域伝送
•近距離ネットワーク、データセンター内ネットワーク



図1 光通信に利用できる波長帯

研究目的

新規波長帯を開拓する光素子の開発及び高度化。
(本研究は、津田研究室が代表をなっている(独)情報通信研究機構の委託研究「Tバンド、Oバンドによる大波長空間利用技術の開発」に基づいて実施される。なお、委託研究は次に示す4つの課題から構成され、パイオニア・マイクロ・テクノロジー(株)、光伸光学工業(株)、(株)オプトクエストの3社が参画している。

1.広帯域半導体ゲインチップの開発
2.広帯域、高精度波長可変光源の開発
3.T及びOバンド用アレイ導波路回折格子の開発
4.大波長空間を用いた波長ルーティングシステムの開発)

2.アレイ導波路回折格子の高性能化



図2 通常AWG構造。A, B, C, D部分の改善によるAWG特性の高性能化を検討

波長分割多重(WDM)通信ではアレイ導波路回折格子(AWG)が不可欠な光素子である。 高性能AWGに要求される特性を以下に示す。
•低損失
•均一なチャンネル間損失差
•低クロストーク
•平坦スペクトル
•低波長・周波数ずれ
•周回性

項目1:超広帯域周回性AWG
T/O帯の超広帯域周回性AWGを従来設計に基づいて作製すると、パスバンドのピーク波長ずれが大きくなり、AWGに周回性を持たせることが不可能となる。
•ピーク波長ずれの主な原因は従来AWGの周回動作において、複数の回折次数を利用することにある
⇒一つの回折次数のみで周回動作が可能なAWGの構成を提案
•ピーク波長ずれの大幅低減

項目1-1:Nx2N AWGと2x1のカプラが組み合わせたAWG

Nx2N AWGと2x1のカプラが組み合わせたAWGの構成を図3に示す。AWGのあらゆる入力ポートに入射されるときに、一つだけの回折次数内のN波長が回収できるように出力ポート数をNの2倍にして、N個の2x1カプラで出力ポート1~N/2による出射光が出力ポートN/2+1~Nによる出射光と合波される。



図3 Nx2N AWGと2x1のカプラが組み合わせたAWGの構成

10-ch、チャンネル間隔6.4 THzの周回性AWGを設計した。図4に入力ポートNのときの透過スペクトルを示す。出力ポート1~N/2によるパスバンドの右側に出力ポートN/2+1~Nによるパスバンドが現れる。入力ポートをNから1までスイッチングさせるとパスバンドが左側にシフトされ、周回動作が可能となることを確認できる。周波数グリッドにおいて最大ずれがチャンネル間隔の26%となった。




図4 10-ch,チャンネル間隔6.4THzの周回性AWGの透過スペクトル。点線は6.4 THz間隔の波長を示す。

項目1-2:インタリーブチャープを用いるAWG

インタリーブチャープを用いるAWGの構成を図5に示す。アレイ導波路にインタリーブチャープを導入し、偶数導波路の中心波長を奇数導波路の中心波長よりチャンネル間隔のN倍にずらすことで隣接する同様な光パターンを発生させる。偶数導波路の中心波長を調整することで隣接する光パターンの回折次数が奇数導波路の回折次数と一致させることができ、ピーク波長ずれが大幅に低減可能となる。




図5 インタリーブチャープを用いるAWGの構成

10-ch、チャンネル間隔30 nm周回性AWGを設計した。図6に入力ポート1のときの透過スペクトルを示す。奇数導波路によるパスバンドの左側に偶数導波路によるパスバンドが現れる。入力ポートを1からNまでスイッチングさせるとパスバンドが右側にシフトされ、周回動作が可能となることを確認できる。波長グリッドにおいて最大ずれがチャンネル間隔の2%となった。




図6 10-ch,チャンネル間隔30 nmの周回性AWGの透過スペクトル。点線は30 nm間隔の波長を示す。

項目2:多段テーパ導波路を用いたAWGの高性能化

項目2-1:低損失AWG

アレイ導波路とスラブ導波路の境界付近のアレイ導波路間のギャップで光が散乱されることが損失の主たる原因である。
⇒光の損失を低減するため、第1スラブ導波路とアレイ導波路の境界に多段テーパ構造を導入することを提案した。




図7 (a)多段テーパ構造,(b)各導波路に対する透過率(通常テーパと多段テーパ)

図7(a)は多段テーパ構造を示す。WとLを最適化することで損失の低減に成功し、その測定結果を図7(b)に示す。各アレイ導波路において通常テーパより透過率が約1.5 dB向上できた。

項目2-2:均一なピーク透過率をもつAWG

スターカプラ構造により、出力導波路の位置が中心より遠くなるほど透過率が低くなる
•チャンネル間損失差が生じる
⇒多段テーパ構造を第2スラブ導波路とアレイ導波路の境界に導入し、チャンネル間損失差を減らすように最適化する方法を提案した。



図8 (a)多段テーパ構造,(b)各出力導波路に対する透過率(通常テーパと多段テーパ)

図8(a)は多段テーパ構造を示す。WとLを最適化することでチャンネル間損失差の低減に成功し、そのシミュレーション結果を図8(b)に示す。チャンネル間損失差は0.36 dBまで減らし、通常テーパより約1.0 dB向上できた。

項目3:インタリーブチャープを用いた周回性AWGのチャンネル間損失差の低減

チャンネル間損失差の低減手段の一つとしてAWGのFSR(Free Spectral Range)を倍にする方法がよく知られている。
•しかし、FSRを倍にすると周回動作が不可能となる。
⇒インタリーブチャープをアレイ導波路に導入し、FSRを倍にした状態でも周回動作が可能なAWGを提案
•低チャンネル間損失差の周回性AWGが実現可能

図9にインタリーブチャープを用いた周回性AWGの動作原理を示す。インタリーブチャープによる隣接のピークがFSRの半分のところに発生し、周回動作を可能とする。



図9 インタリーブチャープを用いた周回性AWGの動作原理

32-ch、チャンネル間隔50 GHzのAWGを設計した。通常AWGよりチャンネル間損失差を約4.0 dBほど低減できた。試作したAWGの各出力ポートの最小と最大損失を図10に示す。



図10 インタリーブチャープを用いた周回性AWGの各出力ポートの最少と最大損失

項目4:AWGを用いた可変波長外部共振器レーザ

可変波長光源はWDMネットワークにおいて重要な素子である。特に、波長によってルーティング先を制御するAWGを用いたルータでは不可欠な素子である。
•しかし、T帯では可変波長光源の開発が不十分であった。
⇒AWGの分波特性を活用した可変波長外部共振器レーザを提案する。
•波長の変更はAWGの入力ポートの切り替えで行う。
•AWGのチャンネル間隔は400 GHz
•ゲインチップは発振波長が1140nmのInGaAs量子ドットゲインチップを利用



図11 AWGを利用した外部共振器レーザの構成



図12 外部共振器レーザの発振スペクトル制御

3.本研究に関する研究発表リスト

(a).論文
[]
(b).国際会議発表
[1] Nazirul Afham bin Idris, Hideaki Asakura, and Hiroyuki Tsuda, “Extremely Wide-bandwidth Cyclic Arrayed Waveguide Grating for Waveband Routing on T-band and O-band,” Integrated Photonics Research, Silicon, and Nanophotonics 2014, JT3A.29, July 13-16, San Diego, U. S. A. (2014)
[2] Hideaki Asakura, and Hiroyuki Tsuda, ''Loss Uniformity Improvement of Arrayed-waveguide Grating Router using Interleaved Chirped Array,'' European Conference on Integrated Optics (ECIO 17th) and MicroOptics Conference (MOC 19th), P025, Nice, France, Jun. 24-27, (2014).